教えて!「次期指導要領のなかみ」

昨年11月に諮問が行われた学習指導要領の全面改訂について、前回は「アクティブ・ラーニング」(AL)に着目しました。その他のなかみはどうなるのでしょうか。英語教育と並んで高校の科目見直しが柱だ、とも指摘されていますが…。


 確かに諮問理由を読むと、英語教育と並んで高校教育について細かい検討が要請されています。具体的には、▽国民投票の投票権年齢が18歳以上となることなどを踏まえた新たな科目等(いわゆる新科目「公共」)▽日本史の必修化など地理歴史科の見直し▽より高度な思考力・判断力・表現力等を育成するための新たな教科・科目▽「総合的な学習の時間」の改善▽職業教育の充実▽義務教育段階での学習内容の確実な定着を図るための教科・科目等――の在り方が例示されています。

 現行の高校指導要領では、「共通性と多様性のバランス」を図ることを主眼に、必履修科目の見直しなどが行われました。しかし中教審や文部科学省の担当者からは、「義務教育に比べて十分に議論を深めることができなかった」との反省が聞かれます。そうした中、高校授業料無償化をきっかけに民主連立政権下で設置された中教審初等中等教育分科会の高等学校教育部会は、これまで制度改革が中心だった高校改革について、教育内容も含めて本格的に議論しようとした画期的なものでした。昨年12月に答申された高大接続改革(高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革)の具体化と相まって、次期指導要領においても高校教育の在り方が大きな焦点になることは間違いありません。

 ただ、あまり細かい点ばかりに着目していてはいけません。高校教育に関する具体的な検討要請も、幼・小・中・高を通した大きな改訂方針の一環として位置付けられなければならないからです。

次期指導要領

 では、大きな改訂方針とは何でしょうか。「育成すべき資質・能力」です。諮問理由でも、経済協力開発機構(OECD)のキー・コンピテンシーや国際バカロレアのカリキュラム、ユネスコの「持続可能な開発のための教育」(ESD)、東日本大震災の復興教育を例に挙げています。いずれも教科・科目の枠にとらわれない資質・能力を提起したものです。国立教育政策研究所も、こうした「コンピテンシーに基づく教育課程改革」が世界的な潮流になっていると指摘。その日本版として、基礎力・思考力・実践力の3層構造から成る「21世紀型能力」(試案)も提案しています。

 これまでの指導要領といえば、もちろん総則が全体の方針を示していましたが、やはり中核を成すのは各教科・科目の内容でした。そこでは、「何を教えるか」(生徒にとっては「何を学ぶか」)が中心になります。しかし、21世紀に活躍するために必要とされる「育成すべき資質・能力」を育むためには、社会に出た時も想定して「何ができるようになるか」が問われなければなりません。ALの充実も、教科・科目の枠を超えて育成すべき資質・能力を育むために「どのように学ぶか」を深めるためのものだったのです。

 中教審の高校部会も、昨年6月の「審議まとめ」で、高校教育の「コア」(全ての生徒が身に付ける資質・能力)として、[1]社会・職業への円滑な移行に必要な力[2]市民性――を柱に据えました。今後、中教審初中分科会の教育課程部会に設けられた「教育課程企画特別部会」で、育成すべき資質・能力とは何かを確定した上で、各校種や各教科・領域等の在り方が検討されることになります。

 自分が「教える」教科・科目がどうなるのか、といった狭い視点に捉われている場合ではありません。学校教育に問われているのは、「これからの時代を、自立した人間として多様な他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な資質・能力」(諮問理由)の育成なのです。キャリア教育の視点が、ますます重視されることでしょう。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/