教えて!「センター試験が廃止される?」

 「センター試験廃止へ」(日本経済新聞6月6日電子版)――。突然の報道に驚いた方も多かったことでしょう。本当に大学入試センター試験がなくなってしまうとしたら、高校現場を揺るがす大問題です。真相はどうなのでしょう。実は意外でも、あり得ないことでもないというのですが……。

 報道があったのは、政府の教育再生実行会議が大学入試の在り方の検討を始める第9回会合の当日の朝刊でした。しかし実際の会合では、報道を裏付けるような配布資料はありません。そのため、夕刊以降に後追いした新聞各紙の見出しも「センター試験廃止も」「センター試験見直しも」など、ニュアンスが若干違っています。

 これは要するに、マスコミ用語で言うところの「アドバルーン(観測気球)」というものだと推測されます。必ずしも決まっていない方針をマスコミに漏らして世間の反応を見て、それによって今後の展開を考える――という手法です。ですから、まだ廃止が決定したわけでは全然ありません。そう思って最初の記事を読み直すと、「検討を始めた」「案が浮上しており」「見込んでいる」など、慎重な書きぶりになっていることに気づくでしょう。

 では、報道は情報源に踊らされた、勇み足だったのでしょうか? 決してそうは思えません。去年の記事で、文部科学省の「大学改革実行プラン」について紹介したことを覚えていらっしゃるでしょうか。そこでは大学入試を「教科の知識を中心としたペーパーテスト偏重による一発試験的入試」から「志願者の意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価に基づく入試へ」と転換することを求め、センター試験も「1点刻みではない大学入試センター試験の資格試験的活用」が提言されていました。

 中央教育審議会の高等学校教育部会では今年1月にまとめた審議経過の中で、高校教育の質を保証するために、希望参加型の「高等学校学習到達度テスト(仮称)」を創設し、生徒の希望に応じて就職や推薦・AO入試などの成績証明にも活用できるようにしよう、という提言が盛り込まれていました。専門高校向けには、技能審査の活用も促進するとしています。一方、同じ中教審で、並行して議論が行われている高大接続特別部会でも、「高等学校学習到達度テスト(仮称)」の様な仕組みの創設や、外部試験の活用等についての検討が進められています。

 しかし、実行会議の終了後に鎌田薫座長と一緒に記者会見に臨んだ下村博文文部科学相が「達成度テストを複数回導入するとなれば、センター試験との二重負担は避けるべきではないかとの議論が(省内で)あったことは事実」と発言していることが注目されます。今回の報道と併せ考えれば、今のところ現行のセンター試験を到達度テストに衣替えして高校在学中に何度も受けられるようにし、大学側はその結果も選抜資料の一つとして総合的に合否判定できる仕組みにしたらどうかという腹案を持っており、実行会議の第4次提言を待って中教審に諮るのではないか――という推測が成り立ちます。

 「受験指導が長引く」「生徒が早くに合格可能な点数を取ってしまったら、その後の指導が大変だ」と批判する先生も多いことでしょう。しかし到達度テストの構想は、高校の成果が大学の入学者選抜で正当に評価されることでもある、という見方もできます。その先にどういう指導をするかは、まさにキャリア教育の出番だとも考えられるのではないでしょうか。むしろ受験に過度に縛られない、理想的な高校教育を行える時代が来ると積極的に受け止めることもできるのではないでしょうか。

 先生方の多くは「共通一次世代」以降で、大学入試にセンター試験のような共通テストが存在することが当然だと思っていることでしょう。しかし、それも大学受験相当年齢である18歳人口が増加していた時の話です。生徒減少期においては、入試方法も大きく変わらざるを得ません。何より東大・京大のようなトップクラスの大学が、入試方法を抜本的に変えなければ真に優秀な学生を集められず、国際競争に打ち勝てない、と危機感を持っているのも事実です。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.6.18) ※肩書等はすべて初出時のもの