教えて!「これからの文教行政」

 昨年末の総選挙結果を受けて、政権が再び自民・公明両党に戻りました。安倍晋三首相は教育に力を入れる姿勢を示しており、首相直属の「教育再生実行会議」も間もなく発足します。自公政権下で、文教行政はどうなるのでしょうか。

 教育再生実行会議では喫緊の課題として、まず、[1]いじめ問題、[2]教育委員会の抜本的な見直し、について審議を急ぎ、「いじめ防止対策基本法」といった法案を今通常国会に、教委制度の改革法案を来年の通常国会に提出したい考えです。また、[3]大学のあり方の抜本的な見直し、[4]グローバル化に対応した教育、についても早期に検討。その後、[5]六三三四制の在り方、[6]大学入試の在り方、が議論される見通しです。

 2006~07年の第1次安倍内閣でも「教育再生会議」を設置したように、国の教育政策に対する安倍首相の思い入れは並々ならぬものがあります。文教行政に通じた下村博文氏を文部科学相に、「ヤンキー先生」こと義家弘介氏を大臣政務官に据えたことでも、その意気込みがうかがえます。下村文科相によると、安倍内閣の二枚看板は経済再生と教育再生であり、まずは経済再生に取り組む一方、中長期的には教育に力を入れることで、日本の再生を図っていくのだそうです。

 スタートダッシュを標榜(ぼう)する安倍政権だけに、再生会議以外にも安倍カラー、下村カラーを反映した文教行政が早くも打ち出されています。概算要求の見直しでは、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)や全国体力・運動能力、運動習慣等調査(全国体力テスト)を抽出方式から悉皆(しっかい)調査に戻すとともに、事業仕分けで廃止された国の道徳教育教材「心のノート」配布予算も復活させるなど、民主連立政権の下で推進された施策の修正にも着手しています。

 学校週5日制を6日制に戻す検討も、省内で始めています。これについて下村文科相は、前回の再生会議で議論が済んでいるため改めて新しい再生実行会議にかける必要はなく、世間の理解も得られるだろうと述べています。現状でも東京都教育委員会などが土曜授業に道を開いており、実現は案外早いかもしれません。

 高校授業料無償化について下村文科相は、当面は現行通り継続する一方、14年度以降は所得制限を設けて、給付奨学金の創設や公私間格差の解消などの財源に充てたい考えを示しています。教職員定数改善計画の実現にも取り組む姿勢を表明しました。前政権の目玉だった政策を全否定するのではなく、いいところは残しながらも軌道修正を図っていこうとするところに「ニュー自民党」のしたたかさが感じられます。

 総選挙時の政権公約には職業教育やキャリア教育の推進、「職業教育に特化した新しい高等教育機関」の創設なども盛り込まれていました。高校の普通科でキャリア教育を必修化する検討を始めた、という報道もあります。「平成の学制大改革」とともに、今後どう具体化を図るのかが注目されます。

 ところで安倍内閣は、今夏の参院選勝利まで「安全運転」に徹しているという観測もあります。そう考えると、教育再生実行会議のメンバーの多くが安倍首相や下村文科相と考え方が近い有識者で固められていることが気になります。前回の教育再生会議で導入された教員免許更新制も、必修部分については学校現場に不満の声も拭えません。今後とも地に足の着いた論議と政策展開を望みたいものです。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.1.22) ※肩書等はすべて初出時のもの