教えて!「これからの大学改革」

 平野博文文部科学相は6月4日、国家戦略会議に教育改革の方針を提示し、翌5日には詳細を「大学改革実行プラン」として公表しました。大学はもとより、高校以下の教育はどうなるのでしょうか。

 高校関係者の目を引くのは、何といっても大学入試改革でしょう。「教科の知識を中心としたペーパーテスト偏重による一発試験的入試」を改め、「志願者の意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価に基づく入試へ」と転換しようというのです。具体的には、①1点刻みではない大学入試センター試験の資格試験的活用 ②「クリティカルシンキング」等を問う新たな共通テストの開発 ③大学グループ別の共同選抜 ④時間をかけた創意工夫ある入試――を促進するとしています。実質的に本来の意味での「AO入学」(時間を掛けて多面的に評価する丁寧な入学者選抜)を一般入試でも求めることになり、これにより大学入試の在り方が大きく変わることになりそうです。

 グローバル化に対応した大学の人材育成としては、東大の秋入学にみられるような入学・卒業時期の弾力化、入試におけるTOEFLやTOEICの活用、英語による授業の倍増を提言しています。

 国立大学改革としては、1つの国立大学法人が複数の大学を保有する「アンブレラ方式」を選択できるようにするといいます。今年度中に基本方針を、2013年半ばに「国立大学改革プラン」を策定するとしており、これにより大学や学部の枠を超えた再編・統合が急ピッチで進むことは必至です。

 また、世界で戦える「リサーチ・ユニバーシティ」を10年後に倍増したり、大学を中心として地域再生の核となる「COC(センター・オブ・コミュニティー)」を形成したりすることを目指しています。これにより大学のタイプ分け(機能別分化)も一層進むことになりそうです。

 大学改革を促すシステムとして、大学の教育や経営状況の情報を詳しく公表する「大学ポートレート」を整備することを求めています。これは大学を評価する時の資料になるとともに、受験生が大学を選ぶ際の参考にできるようにすることが中央教育審議会でも検討されています。

 ところで、なぜこのような改革プランが出てきたのでしょうか。直接的には昨年の「政策提言仕分け」や財務省との予算折衝などで大学改革が求められたことにありますが、もっと大きな背景としては、グローバル化やイノベーション(技術革新)に対応できる人材を育成しなければ日本が世界で生き残っていけない、という危機感からです。大学などでの人材育成と産業界のニーズとのミスマッチに危機感を示し、学校と地域・社会や産業界が連携・協働したキャリア教育の促進を打ち出しているのも、そのためです。

 初等中等教育への影響は、大学入試にとどまりません。グローバル化やイノベーションに対応した人材育成の基礎づくりは、高校以下にもこれまで以上に求められることになるでしょう。平野文科相は教育改革の基本的視点の一つとして「幼・小・中・高・大の円滑な接続、教育と産業のマッチング」を掲げており、高校早期卒業制度の創設など六三三四制を柔軟化することも打ち出しています。

 新たに提言された具体的な課題について文科省は今後、中教審や有識者会議などで検討することにしています。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2012.6.18) ※肩書等はすべて初出時のもの