カレッジマネジメント Vol.208 Jan.-Feb.2018

小さくても強い大学の『理由』

リクルートが行う調査データ、国内外の先進事例、人材市場、専門家の解説などにより、「高等教育経営のサポート誌」としてタイムリーなテーマを発信しています。

編集長が語る 特集の見どころ

  18歳人口が再び減少し始める、いわゆる「2018年問題」を目前にして、マーケット規模の縮小に向けた動きが激しくなってきた。

 大規模大学、あるいは東京23区の大学に学生が集中しているという現状を受け、大規模大学は定員超過率の抑制、東京23区内の大学は定員増を禁止する規制が導入された。そうした中、東京23区内でなくても、小規模でも、大規模大学にはない個性や特徴を明確にして、人気を集める大学も存在する。今回は、そうした小さくても強い“小強大学”に注目した特集である。

 “小強大学”は、筆者が作成した私立大学の競争戦略図(下図)でいうと、左上のマーケティング上、カテゴリーキラー(ニッチャー)と呼ばれるセグメントに当たる。(この競争戦略図全体の説明については、本誌193号で詳細の解説をしているので、バックナンバーをご覧いただきたい)。

 カテゴリーキラーとは、商品の豊富な品揃えを魅力とする業態とは対照的に、特定の分野で強みを発揮する業態のことを言う。また、ニッチャーとは、大手が狙わない狭いマーケットに対してサービスを提供する、小規模ならではの戦略である。いずれにしても、他大学にはない個性を価値として、学生を集めることに成功している。こうした大学には、偏差値ではない価値に魅力を感じて入学するコアなファンがいて、期待通りの教育が受けられるため、入学後のモチベーションも保たれ、入学時だけでなく、卒業時の満足度も高くなる傾向がある。

 今回の特集では、“小強大学”のエビデンスを整理するため、日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)に、入試結果について、俯瞰的に規模別、地域別の分析をお願いした。すると、従来は定員規模800人が定員割れラインとされていたが、それが2017年度入試では500人にまで下がってきていることが分かった。大規模大学の定員超過率の抑制は、中小規模の大学にとっては、一定の成果を上げているようである。そして、“小強大学”は、どうも西日本のほうに多く存在しているようだということも見えてきた。また、近年“小強大学”の成功例として紹介されることが多い、群馬県前橋市に所在する共愛学園前橋国際大学の大森学長に、小さくても強い大学の創り方として、そのご苦労されたプロセスや、経営層として何を大切にすべきかをご寄稿いただいた。事例校も個性あふれる大学ばかりである。

 今回の特集を通じて分かった小さくても強い大学の「理由」とは何なのだろうか。私学事業団のデータ分析によると、「地元に強い、実学系の学部を持つ大学」が健闘していることがわかる。編集部でも、特集を企画する際、東京23区外、定員800人以下、志願倍率5倍以上という大学を抽出して傾向を見てみた。そこで改めて感じたのは、カテゴリーキラーとしては、キラーたるべき「競合優位性=他にはない個性」が重要だということである。これは当たり前のことかもしれない。しかし、大学に伺ってみると、意外に自身の大学の個性や強み、特長について、学内で“共通言語化”したり、共有されていないことが多いように思う。まずは、学内で特長、価値、強みを認識して“共通言語化”し、それをステークホルダーにしっかりと、根気強く伝えていく。まさに、これこそが小さくても強い大学の「理由」ではないか。

 今後は、さらに18歳人口の減少が進むとともに、“小強大学”の強みであった、実学系のプロフェッショナル人材育成という市場に、2019年より専門職大学が創設され、競争環境は激化することが予想される。各大学が何を強みとして位置づけ、それをどのように磨き込んで、「覚悟を決めて」中長期的な価値を創り出していくのかが問われている。そして、この問いは小規模大学に限ったものではないと思う。